ジンギスカンと聞いて、羊肉と一緒に思い浮かぶのが、中央が山のように盛り上がった独特の鍋。
いわゆる「ジンギスカン鍋」です。
普通の焼肉では平らな網や鉄板を使うことが多いのに、なぜジンギスカンではあの山型の鍋が使われてきたのでしょうか。
結論からいうと、山型のジンギスカン鍋には、
中央で肉を焼き、そこから出た脂や肉汁を外側へ流しながら、周囲の野菜も一緒に仕上げる
という、ジンギスカンの食べ方に合った構造があります。
ただし、現在のジンギスカン店がすべて同じ鍋を使っているわけではありません。
羊組でも、店舗によって焼き台を変えています。
麻布の羊では、ドーム型のジンギスカン鍋。
市ヶ谷の羊では、羊肉をより楽しんでもらうために製作した鉄製の特注鉄板。
熱源はどちらもガスですが、焼き台が変われば、脂の動き方や肉への熱の入り方も変わります。
今回は、ジンギスカン鍋がなぜ山型なのかという基本から、鉄板で肉を焼くメリット、羊組が店舗によって焼き台を変えている理由まで、実際に両方を使っている羊肉専門店の視点から解説します。
ジンギスカン鍋とは?
ジンギスカン鍋は、羊肉と野菜を焼くために使われてきた専用鍋です。
代表的なのは、中央がドーム状に高くなり、そこから外側に向かって溝が伸びている形。
一般的には、
中央の高い部分で羊肉を焼き、外側の低い部分で野菜を焼く
という使い方をします。
特徴的なのは、肉を焼く場所と野菜を焼く場所がひとつの鍋の中で自然に分かれていることです。
中央で焼いた肉から出た脂や肉汁は傾斜に沿って外側へ流れ、その旨みを受けながら周囲の野菜に火が入っていきます。
単に羊肉を焼くための鉄板ではなく、
肉と野菜をひとつの鍋の中で一緒に仕上げる。
そんなジンギスカンらしい食べ方に合った道具です。
関連記事
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ジンギスカンそのものの基本や、使う肉、焼肉との違いについてはこちらで詳しく紹介しています。
なぜジンギスカン鍋は山型なのか?
山型になっている大きな理由のひとつが、肉から出た脂や肉汁を外側へ流しやすくすることです。
平らな鉄板では、肉から出た脂は焼いている場所の周辺へ広がります。
一方、山型のジンギスカン鍋では、中央で肉を焼くと、脂や肉汁が傾斜を伝って外側へ流れていきます。
その結果、
中央では羊肉を焼く。
↓
肉から出た脂や肉汁が外側へ流れる。
↓
外側に置いた野菜が、その旨みを受けながら焼けていく。
という流れが自然にできます。
ジンギスカン鍋の山型は、見た目のためではありません。
肉と野菜を一緒に食べるために理にかなった形になっています。
中央で肉、外側で野菜を焼く理由
ドーム型のジンギスカン鍋では、どこに何を置くかにも意味があります。
中央では羊肉を焼く
羊肉は中央の高い部分で焼きます。
肉から脂が出ると、傾斜や溝を伝って外側へ流れていきます。
ただし、羊肉ならどれも同じ量の脂が出るわけではありません。
肩ロース。
モモ。
ランプ。
ラムチョップ。
さらに、ラム・ホゲット・マトンという年齢による違いもあります。
実際に一頭ずつ羊を扱っていると、同じ部位でも個体によって脂の付き方や赤身の状態は違います。
そのため、「ジンギスカン鍋なら何分焼けばいい」と時間だけで判断するより、
肉の厚さ。
脂の状態。
表面の焼け方。
こうしたものを見ながら焼く方が大切です。
外側では野菜を焼く
玉ねぎやもやし、キャベツなどの野菜は、中央より低い外側に置くのが一般的です。
中央で焼いている羊肉から出た脂や肉汁が外へ流れ、その旨みを受けながら野菜に火が入ります。
野菜を単独で焼くというより、
羊肉を焼いたときに出てくる脂や肉汁まで使って仕上げる。
これが、山型のジンギスカン鍋のおもしろさです。
鍋の「溝」にはどんな意味がある?
ジンギスカン鍋を見ると、中央から外側へ向かって何本もの溝が入っています。
この溝には、肉から出た脂や肉汁を外側へ流しやすくする役割があります。
ただし、すべてのジンギスカン鍋が同じ形ではありません。
放射状に溝が入ったもの。
渦巻き状になったもの。
穴が開いているもの。
スリットが入っているもの。
地域や店、使う熱源などによってさまざまな形があります。
「中央が山型になった鍋」という基本的な特徴は共通していても、その細かな構造はひとつではありません。
麻布の羊では、ドーム型のジンギスカン鍋
麻布の羊で使用しているのは、一般的なドーム型のジンギスカン鍋です。
熱源はガス。
中央の山になった部分で羊肉を焼き、その周囲で野菜を焼いていきます。
肉から出た脂が外側へ流れるので、その旨みを野菜にも生かしながら食べることができます。
肉だけではなく、肉と野菜を一緒に仕上げていく。
ジンギスカンらしい焼き方を楽しめるのが、この鍋の特徴です。

市ヶ谷の羊では、羊肉のためにつくった特注鉄板
一方、市ヶ谷の羊では、ドーム型のジンギスカン鍋ではなく、羊肉を焼くことを考えて製作した鉄製の特注鉄板を使用しています。
こちらも熱源はガスです。
市ヶ谷店をつくるときに重視したのは、「ジンギスカンなら山型の鍋を使う」という形をそのまま踏襲することではありませんでした。
それよりも、
羊肉そのものを、もっと楽しんでもらうこと。
ここを優先しました。
そのため、網や軽いプレートではなく、肉をしっかり焼くための鉄板を特注しています。

なぜ肉を焼くのに鉄板を選んだのか?
鉄板で肉を焼く大きなメリットのひとつが、しっかり予熱すると熱を蓄えやすいことです。
冷たい肉を焼き台に置けば、当然その部分の温度は一度下がります。
焼き面の温度が大きく落ちると、
なかなか焼き色がつかない。
表面が焼ける前に肉汁が出る。
時間をかけすぎて肉の中まで火が入りすぎる。
といったことが起きやすくなります。
ある程度の熱を蓄えた鉄板では、肉を置いたときにも焼き面の温度を保ちやすくなります。
特に羊組では、薄切り肉だけではなく、厚みのあるラムやホゲット、ラムチョップなども扱います。
だからこそ、
肉を置いた瞬間から安定して熱を伝えられること
は重要です。
網ではなく、鉄板だからできる焼き方
網と鉄板には、それぞれ違った特徴があります。
網の場合、肉と焼き台が接する面積は小さく、脂は下へ落ちやすくなります。
直火に近い香ばしさを楽しみやすい一方で、肉から出た脂も落ちていきます。
鉄板は、肉と焼き面が広く接触します。
そのため、焼き面から肉へ面で熱を伝えやすいのが特徴です。
表面をしっかり焼きながら、その肉が持っている脂や旨みも生かして仕上げていく。
市ヶ谷の羊では、脂を落とすことだけを目的にするのではなく、
赤身も脂も含め、その羊肉が持っている特徴を楽しんでもらいたい。
そんな考えから鉄板を採用しています。
特注にした理由は、焼きムラをできるだけ抑えるため
市ヶ谷店で使用している鉄板は、市販のプレートをそのまま置いたものではありません。
羊肉を焼くことを前提に製作した特注品です。
重視したのは、焼き面の温度を安定させ、焼きムラをできるだけ抑えること。
一部分だけが極端に熱くなったり、逆に温度が低かったりすると、同じ肉でも置いた場所によって焼き上がりが変わってしまいます。
特に複数種類の羊肉を提供する場合、
赤身。
脂の多い部位。
薄い肉。
厚い肉。
骨付き肉。
それぞれ熱の入り方が違います。
だからこそ、できるだけ安定した焼き面をつくり、そのうえで肉の状態を見ながら焼ける環境にしています。
もちろん、
鉄板を使えば自動的に焼きムラがなくなる
という意味ではありません。
実際の焼き上がりは、
鉄板の温度。
肉を置く場所。
肉の厚さ。
脂の量。
一度に載せる量。
などによって変わります。
ただ、その差をできるだけ小さくして、肉に集中できるようにする。
そのための特注鉄板です。
鉄板だからこそ、羊肉の違いを楽しみやすい
市ヶ谷の羊では、一種類のラム肉だけを提供しているわけではありません。
ラム。
ホゲット。
マトン。
肩ロース。
モモ。
ランプ。
ラムチョップ。
ハツ。
同じ羊でも、年齢や部位によって赤身の味、脂、食感はかなり違います。
だから市ヶ谷店では、
「ジンギスカンを食べる」
だけで終わらず、
一枚一枚の羊肉を食べ比べてもらう
ことも大切にしています。
鉄板で表面をしっかり焼きながら、それぞれの赤身や脂の違いを感じてもらう。
そのために、肉を焼くことへ寄せた鉄板を使っています。
ドーム型の鍋と鉄板、どちらがおいしい?
これは、どちらが上という話ではありません。
楽しみ方が違います。
ドーム型のジンギスカン鍋は、
中央で肉を焼く。
脂や肉汁を外側へ流す。
その旨みで野菜を焼く。
という、肉と野菜を一緒に楽しむジンギスカンらしい構造です。
一方、市ヶ谷の特注鉄板は、
鉄板にしっかり熱を持たせる。
肉に面で熱を伝える。
焼き面の温度を安定させる。
肉ごとの状態を見ながら焼く。
という、羊肉そのものを一枚ずつ楽しむことに重点を置いた焼き台です。
同じガス火でも、その上にある鍋や鉄板が変われば、羊肉の楽しみ方も変わります。
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羊組が店舗によって焼き台を変えている理由
麻布の羊と市ヶ谷の羊で、設備を同じものに揃えていないのには理由があります。
麻布では、ドーム型のジンギスカン鍋。
市ヶ谷では、羊肉のためにつくった特注鉄板。
熱源はどちらもガスです。
違うのは、その店で羊肉をどう楽しんでもらいたいか。
麻布では、肉と野菜を一緒に焼くジンギスカンらしい楽しさ。
市ヶ谷では、さまざまな年齢・部位の羊肉を、一枚ずつ食べ比べる楽しさ。
羊肉は、ただ焼けば同じ味になる食材ではありません。
年齢。
部位。
品種。
脂。
厚さ。
そして焼き方。
いろいろな要素によって印象が変わります。
焼き台も、そのひとつです。
ジンギスカン鍋では野菜をどこに置く?
ドーム型のジンギスカン鍋を使う場合、野菜は外側、肉は中央に置くのが基本です。
中央で肉を焼くと、脂や肉汁が外側へ流れていきます。
特にもやしや玉ねぎなどは、その脂を受けながら火が入っていきます。
ただし、野菜を大量に置きすぎたり、鍋全体を食材で埋めたりすると温度は下がります。
これは鉄板でも同じです。
羊肉を焼くときは、
一度に肉を載せすぎないこと。
食べる分を少しずつ焼き、焼けたら次を載せる。
その方が、焼きすぎや温度低下を防ぎやすくなります。
ジンギスカン鍋は、肉を焼くだけの道具ではない
ドーム型のジンギスカン鍋を見ると、どうしても中央の山型に目がいきます。
でも本当の特徴は、
肉を焼く。
脂や肉汁を外側へ流す。
その旨みで野菜を焼く。
肉と野菜を同じ鍋で仕上げる。
この一連の流れにあります。
一方で、羊肉そのものをどう焼くかに重点を置けば、鉄板という選択肢があります。
どちらが正解という話ではありません。
焼き台には、その店が羊肉をどう食べてもらいたいかが表れます。
まとめ|焼き台を知ると、ジンギスカンはもっとおもしろい
ジンギスカン鍋が山型なのは、単なるデザインではありません。
中央で肉を焼き、
肉から出た脂や肉汁を外側へ流し、
周囲の野菜にその旨みを移しながら食べる。
ジンギスカンの食べ方に合った構造になっています。
一方で、羊肉の楽しみ方はそれだけではありません。
羊組でも、
麻布の羊では、ドーム型のジンギスカン鍋。
市ヶ谷の羊では、羊肉を焼くために製作した特注鉄板。
どちらもガス火ですが、焼き台が違えば、脂の動き方や肉への熱の入り方も変わります。
麻布では、肉と野菜を一緒に楽しむジンギスカンらしさを。
市ヶ谷では、鉄板で一枚一枚の肉を焼き、羊肉そのものの違いを。
次にジンギスカンを食べるときは、肉だけでなく、どんな鍋や鉄板で焼いているのかにも注目してみてください。
麻布の羊
ドーム型のジンギスカン鍋で、羊肉と野菜を一緒に楽しめます。
市ヶ谷の羊
羊肉をより楽しんでもらうために製作した特注鉄板で、ラム・ホゲット・マトンやさまざまな部位を楽しめます。
参考資料
- 農林水産省
「ジンギスカン|にっぽん伝統食図鑑」 - 農林水産省
「ジンギスカン/成吉思汗 北海道|うちの郷土料理」
